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県内外で取り組まれている、地域福祉の興味深い取り組みを取材しています。ヒントになりそうな知恵と実践が満載です。

「だれでも話せる、まちのよりどころ」を目指す 聖ヨゼフ・ホーム

2025-10-22
カテゴリ:高齢,生活支援,SNS,まちづくり
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オレンジカフェの会場にもなる「マリアカフェ」の看板
「だれでも話せる、まちのよりどころ」を目指す 聖ヨゼフ・ホーム

オレンジカフェに笑いの輪

御所市戸毛の養護老人ホーム「聖ヨゼフ・ホーム」は、近鉄吉野線の葛駅から徒歩7分のところにあります。

戦中に軍需工場だったというところですが、モミジバフウや八重桜があちこちにあって、そんな時代のことなど想像もできないほど、静かで穏やかな空気に包まれています。

ここでは月に一度、入所者や住民を招くオレンジカフェが開かれています。

認知症の当事者や関係者、関心を持つ人たちが集う憩いの場です。

昨年度までは隔月開催だったそうで、今年度からは毎月開かれるようになりました。

私がお邪魔したのは5月でした。

近隣の高齢者やホームの職員ら約10人が参加し、みんなでお茶を点てる体験をしようというプログラムでした。

施設長の福井修平さんの姿もありました。
「聖ヨゼフ・ホーム」の落ち着いた外観
すぐそばの園庭は緑に恵まれている
八重桜の並木も
「マリアカフェ」は天井が高く、開放感いっぱい
初挑戦を終えてホッと一息の福井修平さん
お茶を点てたら手が痛い?

会場の「マリアカフェ」はホームに併設されたスペースで、太い木の柱や梁が存在感を見せる、落ち着いた場所です。

お茶はほぼ全員が初心者でした。茶筅でお茶を泡立てるのですが、なかなかうまくいきません。

そのうち、茶筅を必死に回し続けて悪戦苦闘していた福井さんが

「手ぇ痛っ! お茶ってこんなに汗かくものなん?」

と‶悲鳴″を上げました。

とたんに皆が大笑いです。

おかげで肩の力が抜けたのか、全員のお茶碗にきれいな緑色になりました。
お茶を点てるオレンジカフェの参加者
楽しいおしゃべりのひと時
フリートークでおのろけ?
 
お茶でほっと一息ついた後は、車座でフリートークを楽しみます。

「夫は無口だし、遊びにも行かない。認知症にならないか心配で」

「夫婦の会話がないの。うちの夫はまだ自分が高齢者と思っていないみたいだし」

そんな話が出るたび、

「ああ、のろけや、のろけ!」

と笑いが起きます。

参加者のひとりはお腹を抱えながら

「こんだけ笑ったらもう大丈夫や。免疫力上がったわ」

と満足そうでした。
原点は「日本人との和解」

「聖ヨゼフ・ホーム」のルーツは戦後間もない1949(昭和24)年、オーストラリアからやってきたライオネル・マースデン神父が奈良で布教活動を始めたことにあります。

従軍司祭だった神父は日本軍の捕虜となり、タイ・ミャンマー国境の泰面鉄道の建設に駆り出された方です。

戦争映画『戦場にかける橋』(デヴィッド・リーン監督、1957年)で有名になった、過酷な捕虜収容所の現場でした。

そこで、マースデン神父は

「憎しみからは何も生まれない。もし、生きてオーストラリアに帰れたら、必ず日本人と和解し、日本を変えよう」

と誓われたのだそうです。

その志に共鳴した幾人もの神父たちが奈良へやってきて、1962(昭和37)年に「聖ヨゼフ・ホーム」が開かれたのでした。

その後豪州の神父さんたちは母国へ引き揚げましたが、今のホームは思いを継ぐ社会福祉法人「カトリック聖ヨゼフホーム」によって運営されています。
 
「どんな人も断らない」

ホームページ https://yozefu-home.or.jp/ には、こんな一文があります。

「どんな人も断らず、小さな人、声を出せない人、生きづらさのある人、行き場がない人、頼るところや頼る人なき方に率先して福祉を届けていくのが聖ヨゼフ・ホームですし、そうあり続けたいと思っています」
地域交流会では、地元の人たちのアンデス民謡演奏もあった
地域に知ってほしい

しかし、福井さんは悩んでいました。

「ホームのことをなかなか、地域のみなさんに知ってもらえない」

というのです。

聖ヨゼフ・ホームでは2019(平成31)年4月から全館建て替え工事があり、地域交流スペースの「マリアカフェ」も設けられました。

ここでレクリエーションや手芸教室などが開かれているのに、なかなか地域の人たちに広まらない。

気軽に来てもらえるにはどうしたらいいのか? 

御所市の委託で数年前に始まったオレンジカフェは笑顔が絶えません。

福井さんのモヤモヤも解消してくれる「地域の癒し」になっていくのではないでしょうか。

「困りごとがあれば来てください」

今年4月には、ホームの園庭で地域交流会も開かれました。

市の幹部や地元県議、地域の住民を招待し、100人以上が参加する盛況でした。

席上、福井さんは

「困りごとがあれば私のところへ来てください。お話を聞いて、必要があれば行政などにつながせていただきます」

と笑顔であいさつしていました。
「地域交流会」のひとコマ
野点で、地域交流会の出席者はひと息
「聖ヨゼフ・ホーム」のホームページには「寄辺なき方に福祉を」のひとことが
早期に相談できる場として

聖ヨゼフ・ホームが地域とのかかわりを重く見るのには、いくつか理由があります。

ひとつは、施設を利用される方たちに地元のことをわかってほしいということ。

「大阪や京都など県外から来て、御所市がどんなところか、よく知らない方も多くいます。そんな方たちに、地域の人たちと触れ合って風土や歴史を知って安心してほしいんです」

福井さんはそう話します。

もうひとつは、「何かあったらヨゼフさん」と地域の人たちに思ってほしいということ。

「高齢者のことだけでなく、さまざまに困りごとを抱える人たちが来てほしい。『ヨゼフさんに行ったら話を聞いてくれるよ』と言ってもらえて、『だれでも話せる、まちのよりどころ』として関われたらうれしい。早い段階で相談にのれる場所でありたい」

そうした姿勢を持つことで、職員が地域や社会の状況、課題を広くとらえてほしいという願いもあるといいます。

「今はパートを含めて相談員を4人置いて、生活上の困難解決を目指すソーシャルワークの強化を図っています。また居住支援法人として、住宅の確保に配慮が必要な人たちの相談や支援にもあたっています」

居住支援では、路上生活を続けていた人や、家出をして漫画喫茶で寝泊まりしていた人などから相談を受け、一緒に住まい探しをすることもあるそうです。

「暮らしの安心」をはぐくむ努力が今日も、緑豊かなまちの一隅で確かに続いています。

(奈良県社会福祉協議会 地域福祉課 小滝ちひろ)
【追記】 聖ヨゼフ・ホームは、日々の活動をインスタグラムで積極的に発信しています。

一度ぜひ、ご覧ください。