県内外で取り組まれている、地域福祉の興味深い取り組みを取材しています。ヒントになりそうな知恵と実践が満載です。
保護動物と人の居場所をつくろう! エール動物園のチャレンジ
2025-06-03
カテゴリ:居場所,SNS,まちづくり,ボランティア
注目
民家が動物園に
4月、下市町阿知賀に「民家動物園」ができました。その名の通り、農家だった住宅とその脇にある農園跡を利用した施設で、「エール動物園」と言います。
土日曜・祝日が開園日で、入場料はワンドリンク付き1000円。午前10時~午後4時の営業時間内なら、何時間いても追加料金なしだそうです。
規模は小さいですが、約20種、約60匹の動物がいます。
ミニブタ、ヤギ、ウサギ、モルモット、ニワトリ、アヒル、リクガメ、イグアナ、ニシキヘビの仲間のボールパイソン、タカの一種ハリスホーク(モモアカノスリ)、ポニー……。
どれも様々な事情で飼育できなくなったため、園長の堀本慎也さんが引き取った「保護動物」です。
この2月までは町内の別の場所に間借りしていました。
しかし事情があって、堀本さんが勤める福祉事業所の大北義昭社長が所有していた、民家へ引っ越したのです。
見た目は本当に、普通の民家です。以前は事業所の利用者が農作業を体験する拠点にしていたところで、ややあれていましたが、堀本さんが一人で突貫工事をし、来客を迎えられるように整えたそうです。
前庭や室内には熱帯魚やカメ、イグアナなどの少し大きなトカゲ類、ウサギ、モルモットなどがいます。
ウサギやモルモットは手に取って家の縁側に座り、癒やしのひとときを過ごすこともできます。
飼育放棄から救いたい
堀本さんは動物園の隣にあるグループホームの夜勤を週数回こなしながら、ホームのすぐ隣にある動物園を切り盛りしています。
子どものころから動物好きで、「ムツゴロウの動物王国」を夢見たこともあったそうです。
保護動物に目を向けるようになったのは5年前。
SNSで知り合った和歌山県内の廃棄物業者から「飼育しているミニブタを手放したい」と聞かされたのです。
「こぢんまり飼っていたのに、約10頭に増えて手に負えなくなった。引き取り手がなければ明日処分するつもりだ」
と言われ、居ても立っても居られなくなり、一番小さかった10キロほどのブタをその日のうちに譲り受けてきたといいます。
インターネットで調べると、飼育放棄寸前のペットの話があちこちで見つかります。
「動物愛」に火が付いた堀本さんは、少しでも不幸な動物を減らしたいと「レスキュー」に乗り出しました。
ブタだけでなく、さまざまな生き物を最高で約100匹を引き取り、母親の実家だった元パン屋の建物で飼い始めたのでした。
母親の勤め先でもある福祉事業所の大北社長がそれを知り、応援してくれることになりました。
今「エール動物園」になっている民家と農園跡も、事業所の施設として利用されていたところです。
飼育方法を手探り
堀本さんは
「助けてやろうと思うのに、飼育方法がわからなくて。当初は引き取っては死なせてしまうことの繰り返しで、訳のわからない状態でした」
と振り返ります。
悲しい別れを経験しつつも、動物取扱業の登録をするなど、公的に認められる形も整えていきました。
折しもコロナ禍の真っ最中。自宅で過ごす時間が増えたことも引き金となって、ペットを飼う人が増えていました。
ところが、感染拡大が収まって元の暮らしが戻ってくると、飼育しきれずに手放すケースが急増したのです。
「特に爬虫類は臭いも鳴き声もしないので、大勢が手を伸ばしましたね。でも、保温の電気代が上昇したり、懐かなかったりで手放されるようになって。引き取り手を探せず、山野や町に捨てる人も出てきました」
目標はアニマルセラピー
堀本さんは、動物園の仕事を「正義です」と言いきります。
「お金にならない、と言い出したら終わり。動物たちを助けて、子どもたちに命の大切さを学んでほしい。その芯だけは曲げたくないんです。だから正義です」
徐々にファンが増えつつあり、中には引きこもりがちだった10代の女の子もいます。
動物の世話を楽しんでくれていて、スタッフとして働きたいという希望を持っているそうです。
「今は雇用できる状況ではないので、ボランティアとして来てもらっています。動物園を黒字化させて、彼女を迎えられるといいのですが」
アニマルセラピーも目標のひとつだそうです。動物とのふれあいを精神的なケアに役立てる活動ですね。
現地を取材した筆者は、農園跡の開放感がすっかり気に入ってしまいました。地べたに腰を下ろしてボーッとしていると、白ブタくんが寄ってきて何度も鼻をこすり付けてきます。
懐いてくれたのかと思いましたが、実は「さっさと働け」と追い立てられていたのかもしれません(笑)。
(奈良県社会福祉協議会 地域福祉課 小滝ちひろ)
