県内各地で取り組まれている、地域福祉の興味深い取り組みを取材しています。ヒントになりそうな知恵と実践が満載です。
人も猫も不幸にならない地域を Life for cats in NARAの挑戦
7月のある日、前澤さんから「多頭飼育崩壊の家を訪問する」と聞き、同行させてもらうことにしました。県東部の道の駅で落ち合い、スタッフらと数台の車に分かれて数キロ先の住宅へ向かいました。道案内をしてくれたのは、当事者男性の兄弟です。
多頭飼育崩壊とは、適正に飼育されなかったペットが繁殖によって増えすぎ手に負えなくなること。今回のケースは以下のようなものでした。
住宅はやや狭小の2階建てで、60代の男性と妻が暮らしていました。最近妻が病死し、男性も入院。しばらく疎遠にしていた兄弟が数年ぶりに訪ね、糞尿だらけの部屋に健康状態がよくない猫がたくさんいるのを見つけました。一部には白骨もあったと言います。成猫が生まれたばかりの子猫を食べたり、病死したりした跡のようです。
兄弟によると、男性の妻が約10年前、近所にいた1、2頭を家に入れて飼い始めたそうです。数頭に増えた段階でいったん不妊手術を施したものの、金銭的負担が追いつかず、繁殖の進行を抑えられなくなりました。十分な睡眠スペースを確保できないほどになり、最晩年の妻は座ったまま眠る日々だったそうです。
その住宅に、前澤さんとスタッフ、当事者の兄弟と私の計5人が入ったのは、曇りがちながら最高気温が35度前後になった日の午後でした。屋内にエアコンはなく、汚れを避けるためにカッパや防護服、手袋を身に付けたうえに靴をポリ袋で覆うので、体感温度はかなりのものでした。
前澤さんの記録にはこうあります。
アンモニアが目に染み、室内のいたるところに糞尿、ハエが飛び交う中、眼球破裂や両目が見えない、また皮膚がボロボロ、咬み傷のある子猫、栄養失調などの猫が多数見受けられた
目視でおおよそ25匹
室内捕獲2匹→翌日避妊去勢手術→8/6までメンバー宅で預かる
状態の悪い子猫~中猫4匹引き上げ病院受診、ノミダニ駆除、ウイルス検査結果4匹エイズ陽性
訪問3日前に兄弟が眼球破裂・体調不良の2匹引き上げ
筆者は数回、住宅内に入りましたが、アンモニアと異臭に耐えきれず、数分間ずつしか留まることができませんでした。糞尿や腐敗したらしい餌、そして死骸が、甘ったるさと酸味の入り交じった尋常ではない臭気を発していました。
6日後、兄弟や前澤さんら約10人が再び訪問。兄弟がエアコンを設置してくれたこと、自衛隊員の男性3人がボランティア参加してくれたこともあり、作業環境が大きく改善。猫をキャリーケースに避難させた上で、屋内から家具や生活雑貨、ゴミなどを外へ運び出し、猫用トイレを数個置くことができました。ただし、2人が熱中症で体調を崩したり、状態の悪い猫1頭が翌日に死んだりしています。