本文へ移動

県内各地で取り組まれている、地域福祉の興味深い取り組みを取材しています。ヒントになりそうな知恵と実践が満載です。

古代ゲーム「かりうち」、こども食堂に進出!

2025-03-07
カテゴリ:住民活動,こども,SNS
オススメ
「かりうち」っておもしろいかも?
奈良文化財研究所が復元した「かりうち」のキット
 「かりうちって、こども食堂で広まったらおもしろいかも。地元・奈良の歴史も学べるし」
 筆者がそんなひとりごとを職場で漏らしたのは、昨春ごろでした。

 すると、向かいの席にいるA係長がすかさず反応してくれました。
 「かりうちかあ。おもしろいかもしれないっすね」

 あれっ、意外!
 かりうちってあんまり知られていない言葉だと思っていたけど、そうでもなかったのかも。
切木四 = 折木四 = 樗蒲 = 加利宇知 ≒ ユンノリ?
韓国のユンノリ=『古代の盤上遊戯「樗蒲」の復元』(小田裕樹さん編集執筆、奈良文化財研究所発行)から
 お読み下さっている方はご存じないかもしれませんので、ちょっと説明しましょう。
 「かりうち」は漢字で「樗蒲」と書きます。平安時代の漢和辞典「和名類聚抄」では、これに「加利宇知」という読みがあてられています。

 奈良時代の「万葉集」では、漢字表記の「切木四」「折木四」を「かり」と読ませていたことがわかっています。切ったり折ったりした木の棒4本をそう呼んでいたという、いわゆる言葉遊びです。

 朝鮮半島の伝統的なボードゲーム「ユンノリ」でも4本の棒(ユッ)をサイコロ代わりにすることなどから、ユンノリが奈良時代には日本に伝わって「切木四」「折木四」を使う「樗蒲」になったのではないかという説があるそうです。
 ユンノリはその後も伝わり続け、現代も韓国ではお正月などに楽しまれています。
点を並べて円を描いた土器に「ハテ?」
平城京二条大路の跡から出土した奈良時代の土器。円状に点が打ってあり「出」の文字がある=『古代の盤上遊戯「樗蒲」の復元』から
 ただ日本では廃れてしまい、古代日本の「樗蒲」がどんな道具やルールで遊ばれていたのか、長いことわかっていませんでした。

 あるとき、奈良文化財研究所(奈良市、略称=奈文研)の小田裕樹主任研究員(考古学)は
 「ハテ?」
 と首をひねりました。
 平城京二条大路跡から出土した皿状の土器の内側に、いくつもの点が打たれているのを見つけたのです。

 点は円を描くように並んでいる上、円の中心を通って全体を6つに切り分ける形にも打たれていました。しかも、円周の一点には「出」という漢字が書かれていて、ここが「出口」らしいのです。

 小田さんがさらに調べると、円状に点を並べた土器は三重県や新潟県、岩手県でも見つかっていたことがわかりました。円の内側の点は、円を6分割するように並ぶものと4分割するものがあり、6分割は平城京跡など8世紀(奈良時代)、4分割が12世紀(平安~鎌倉時代)ということも明らかになったのです。どうやら6分割が4分割に変わっていったようです。現代韓国のユンノリは円ではなくて四角形で、4分割タイプです。
現代に広めよう!
こども食堂ではないのですが、「葛城あすなろ合唱団」の夏合宿でも「かりうち」大会。指導者のSさんは「小学1年生に勝てない!」とくやしそう。
 これは古代研究の大きな成果ですが、小田さんはさらに先を目指しました。

「ユンノリを参考に遊び方やルールを復元して、古代のゲームを現代に広めよう! 古代がグッと身近になるはずだ」

 苦心の末にできあがった復元版「かりうち」は、現代の双六の要領で2人が対戦します。ゲーム盤は円を6分割する形です。
 「切木四」「折木四」のように、縦半分に割った棒4本(かり)をサイコロ代わりに投げ、出た目の数だけコマを進めます。コマは一人4つで、円をぐるっと一周するもよし、6分割のポイントから円の中心をめざしてショートカットするもよし。
 自分のコマすべてを相手よりも早く「出」を通過させれば勝ちです。

 ルールは簡単で、1ゲーム10~15分程度で楽しめます。
 「かり」の目によっては「連チャン」「おんぶ」「どんでん返し」といった特典があり、場合によっては相手のコマをふりだしに戻すこともできるので、小田さんは「運と度胸、戦略が大事」といいます。


モルックに負けるな!
 小田さんらは奈文研の中に「日本かりうち協会」という普及団体をつくり、かりうちキットの提供や講師派遣をする「アウトリーチプログラム」を2024年から始めました。

 筆者がひとりごとをつぶやいたのは、その案内を奈文研のホームページで見つけた時だったのです。

 地域福祉の世界では最近、北欧発祥の軽スポーツ「モルック」が大人気です。

 「かりうちはスポーツじゃないけれど、遊んでいる人たちの様子はモルックに似た熱気がありそう。モルックみたいにこども食堂や高齢者のサロンで楽しんでもらえたら、流行るんじゃないかしらん」

 と、勝手な妄想を膨らませました。
「アウトリーチ」で教えてもらおう
奈文研の小田さんは、奈良時代には「かりうち」以外にもあやつり人形やコマなどの遊びがあったことを教えてくれました=2024年8月17日、大和郡山市の平和地区公民館で
 さっそく奈良文化財研究所を訪ね、かりうち協会の事務局を務める高橋知奈津・遺跡研究室長に相談しました。「まずは、こども食堂でトライしてみたい」

 高橋さんはすかさず
 「希望するところがあれば、必要数のキットを無償提供します」
 と快諾して下さいました。

 ただ、「今年度は講師役の小田さんが超多忙なんです。教室は1カ所くらいが限界かも」という条件付きでした。
 
 善は急げです。「奈良こども食堂ネットワーク」を通して県内のこども食堂にかりうちキットの希望を募り、手を挙げた7団体に計27キットを無料提供していただきました。

 また、大和郡山市の平和地区公民館で活動している「平和ごはん」(図書館とまちづくりネットワークin大和郡山)で教室を開いてもらうこともできました。
 教室が開かれたのは夏休み中の2024年8月17日。小田さんが講師、高橋さんが進行を務めてくださいました。
 当日の模様はYouTubeにアップしましたので、以下のURLをクリックして、ぜひご覧下さい。https://youtu.be/KqGqEu4R_nc 
 
 小田さんは、1300年前の奈良時代に平城京の人々が楽しんでいたさまざまな遊びや、平和地区公民館の近くで見つかった遺跡などを紹介し、子どもたちを「かりうち」だけではない古代のおもしろさに引き込んでくれました。動画の後半では、小田さん、高橋さんと子どもたちが歓声をあげながら「かりうち」に興じる様子もしっかり収められています。
「かりうち」に熱中する子どもたちを見守る小田さん=2024年8月17日、大和郡山市の平和地区公民館で
 大人も子どもも一緒に手軽に楽しめて、奈良の歴史に触れることもできる「かりうち」は、地域の人々が集まる場をなごませる格好のツールになりそうです。
 奈良文化財研究所の「アウトリーチプログラム」は2025年度も継続されます。申し込み受付期間は4月17日10時から24日15時まで。詳しくは、同研究所のホームページ https://www.nabunken.go.jp/research/kariuchi.html をごらんください。
 
 「かりうち」キットは、奈良文化財研究所の
平城宮跡資料館(奈良市佐紀町)https://www.nabunken.go.jp/heijo/museum/ 
飛鳥資料館(明日香村奥山)https://www.nabunken.go.jp/asuka/index.html
などで購入もできます。1セット2500円(税込)です。

 また、YouTubeにある奈良文化財研究所の「公式なぶんけんチャンネル」https://www.youtube.com/channel/UCYmEE8czVlkvkX8DrV9NuIw 
には、以下のような動画もあり、大人も子どもも楽しみながら「かりうち」の遊び方や古代人の暮らしなどを知ることができます。
 
1)よみがえった古代のゲームかりうちの遊び方(基本のキ! ルールがすぐわかります)   https://www.youtube.com/watch?v=NWMjVsVTnwg&t=202s
2)平城京の暮らし -娯楽と遊戯-(1300年前の人々がどう暮らし、遊んでいたかを小田さんが解説します。やや大人向け)
3)「かりうち」の舞台、平城宮(2を優しく解説。子ども向け)

  ちなみに、筆者は生駒市内のこども食堂を訪ねたおり、初めて「かりうち」をするという小学生の男の子に負けました。悔しくて2回、3回と挑戦したけれど、まったくダメでした。

 古代には賭け事として流行したためか、禁止令も出されたそうです。熱くなったご先祖様たちの気持ちがちょっとわかったような気がしました。
 みなさんも「かりうち」で楽しく古代人体験をしてみませんか。(奈良県社会福祉協議会地域福祉課・小滝ちひろ)
 
参考文献
小田裕樹『古代の盤上遊戯「樗蒲」の復元』(独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所、2016年)